広場恐怖は、パニック障がいを持つ人の約80%に見られます。
私もこの広場恐怖に苦しめられ、単独での外出がままなりません。
長い間、電車やバスといった公共機関の利用ができず、遠出は家族が運転する自家用車のみ過度な緊張から逃れられます。
では、この「広場恐怖」とはいったいどういうものでしょうか。
パニック障がいと診断されたばかりという人や、家族がパニック障がいや広場恐怖症に苦しめられているという方はチェックしてみてくださいね。
ここでは、広場恐怖の詳細、そして診断基準などを紹介します。
*8割が苦しんでいる! 広場恐怖とは?
パニック障がいについて見聞きしたときに、十中八九「広場恐怖」という言葉がでてきます。
閉所恐怖とか高所恐怖といったものと同じようなものかなとの想像はできますが「広場が怖いの? 」と不思議に感じた方もいるでしょう。
よく誤解されるのですが、広場恐怖は、広場が怖いという意味ではありません。
- 広場恐怖・・・簡単には脱出できない場所や状況に対し、恐怖を感じること
高所恐怖症の方は、高い場所を怖がりますね。
そして閉所恐怖症の人は狭い場所を怖がります。
これらは恐怖の対象が限定されていますが、広場恐怖の対象は「パニック発作」そのものです。
そのため場所などは限定されず、上にあげた場所・状況でパニック発作が起こったらどうしよう! と思う気持ちが、恐怖を生み出します。
その恐怖の原因は、「誰にも助けてもらえない、どうしようもない、逃げ出せない」です。
広場恐怖という名前の由来
由来は、古代ギリシャまでさかのぼります。
古代のギリシャでは広場に人を集めて集会を行う習慣がありました。
しかし込み合った広場にいると恐怖を感じたり、過呼吸を起こしてしまう人がこの頃からいたのです。
無理に集会に参加させると不安発作を起こす人がいたことから「広場恐怖」という言葉が生まれたそうです。
広場恐怖はどんな場所や状況が怖い?
多くのパニック障がい患者が怖がるものは以下のようなもの・場所・シチュエーションです。
・電車やバス、飛行機などの公共機関
・学校の教室
・歯医者や美容院
・銀行や市役所
・映画館やカラオケルーム
・地下にあるレストランやお店
・人込み
・冠婚葬祭
・信号や踏切待ち
人が多い場所や大人しく座っていなければならない場所、人目がある場所、新幹線や長距離バスなどのすぐに出られない状況などに、強い恐怖を感じるのですね。
・広場恐怖のレベルは3つ
広場恐怖症にはレベルが3つあります。
軽度・中等度・重度ですが、このレベルはパニック障害の重症度とは関係ありません。
パニック障がいがひどくても広場恐怖はまったくないという人もいますし、パニック発作はほとんど起きないけれど広場恐怖はひどく、家から一歩も出られないという人もいます。
軽度・・・発作に対する恐怖や不安は感じるが、どうしても必要があるところには一人で出かけられる
中等度・・・発作に対する恐怖や不安が強いが、家族が一緒、服薬していれば必要な場所に出かけられる
重度・・・周囲すべてに強い不安や恐怖を感じ、家からまったく出られなくなる
重度の方の心労たるや、いかばかりかと思います……。
付き合う家族も、これはとても大変ですよね。
重度になると通院もできませんので、電話で診察を受けたり往診をお願いしたりすることになります。
ちなみに私は中等度ですね。
ぶり返しを経験する前は軽度でした(小学校の参観や懇談などには一人で参加できたし、買い物なども一人で行けた)。
現在は安定剤を飲めば一人でも一定範囲(自転車でいける距離の実家や郵便局など決まったところ)、家族の付き添いがあれば薬なしでも外食や旅行が出来ています。
しかし、たとえばスーパーやショッピングセンターなどで少し家族から離れて商品を見ているときに、ふと「今一人だ」と気付くと途端に冷や汗&震え&のどが締め付けられる感じが発生します。
気づけば、焦りが出るんでしょうかね…。
ママ友や近所の人にはパニック障がいを持っていることを話していますが、知らない子供の同級生の親御さんなどには「いつもご夫婦で仲が良いですね~、今日もお二人で?」と、人によっては嫌味混じりで言われることがあります。
そうなんですよ、夫の休みが取れたので、あはは~と返しています。
しかしこういうとき、夫がいないと出かけることができない自分に腹が立ちますし、自分の時間を使って付き添ってくれる夫に申し訳なさも覚えます。
私はもともと単独行動が好きで、学生のときには一人旅などをよくしていた人間なので、常に誰かと一緒という状態に最初はストレスもたまっていました。
一人になりたいけれど一人にはなれないというジレンマ!
イライラしたり、理不尽な態度も多かったと思います。
だけど優しく付き添ってくれる家族には、感謝しかありません……。
*広場恐怖はなぜ生じる?
広場恐怖症の発生原因ははっきりと特定されていません。
しかし、私が思うのは以下のようなことです。
パニック障がいになる人は、元々真面目で常識的な人、世間体を気にする人が多いと言われます。
そのため、発作が起こって号泣したり過呼吸になったり、倒れこんだりすることで、人から変な目で見られないか、迷惑をかけてしまわないかということを気にしています。
人がたくさんいる場所なら誰かが助けてくれるはずとは考えられず、多くの人の目に発作中の自分がうつって恥ずかしい、という気持ちが先行してしまうのです。
不安が襲ってきて今すぐここから逃げたい! と感じていても、電車や飛行機から飛び降りるわけにはいきません。
美容院で頭を洗ってもらっているときに、洗剤だらけの頭で逃げ出すわけにはいきませんよね。
そのため、不安感が生まれて爆発的に成長し、パニック発作を誘発してしまう、そう考えています。
私の場合、最初は電車でした。
いつも通り朝、電車に乗って仕事に向かおうとしたら、何やらざわざわと心が揺れ始めて非常な不安が襲ってきたのです。
いても立ってもいられない心境です。
じっと座っているなんて無理! という。
だけど、朝の通勤電車ですよ。満員で動くことすらできませんよね。
しばらくはそれを「気のせい」や「体調不良」で片づけて、音楽を聴いたり本を読んだりして頑張っていましたが、それもいよいよできなくなり、ホームそのものが怖くなってしまいました。
電車に乗りたくてもホームが怖くて上がれません。
会社に行けず途方にくれ、上司に連絡して休ませてもらい、それを気に病んでますます悪化するという状態でした。
多くのパニック症患者さんは、過去に「簡単には脱出できない状況」で怖い思いをしたことがあります。
たとえば満員電車の中でトイレに行きたくなったことがあるとか、最初のパニック発作がバスの中だった、といったようなことです。
それがきっかけになり脳に意識付けをしてしまって、その場所そのものを怖がるようになってしまいます。
私は発作こそ起こしていませんでしたが、強い恐怖感に襲われたことが通勤電車の中だったので、以来電車には乗れなくなりました。
そのため、元からあまり乗る機会のなかったバスは今でもあまり苦痛ではありません。
飛行機は怖くて試していませんが、タクシーや自家用車も大丈夫です。
人によって広場恐怖の対象が違うというのも、大きな特徴です。
さらにいえば、恐怖の対象は広場恐怖のレベルに応じてうつってきます。
たとえば、軽度のときは「美容院でシャンプーをしてもらうときが怖い」であったため、シャンプーなしでドライカットをしてもらえばOKでした。
しかし広場恐怖の段階が進むと「椅子に座って髪を切ってもらっている状態」もダメになり、仕舞いには「美容院そのものが無理」になります。
*広場恐怖の診断基準
では、どんな基準で広場恐怖と診断されるでしょうか。以下A~Iまでの9点です。
A:少なくとも以下の5つの状況のうち、2つ以上の広場恐怖の対象となる状況について、いちじるしい恐怖、もしくは不安を生じる
1、公共の交通機関
2、開けた場所
3、店、劇場、映画館
4、列に並ぶ、もしくは人込みにいる
5、その他の状況で家の外に一人でいる
B:自分を制御できなくなるような症状やパニック症状が起きたときに、逃げることが困難、もしくは助けが得られないかもしれない状況に恐怖を感じる
C:広場恐怖の対象となる状況において、一貫して恐怖もしくは不安が誘発される
D:広場恐怖の対象となる状況を積極的に回避するか、同伴者を求めるか、あるいは激しい恐怖・不安を感じながら耐え忍んでいる
E:恐怖・不安は実際に引き起こされた危険性に対して釣り合わない
F:恐怖や不安、それからの回避が6か月以上続いている
G:恐怖・不安や回避や、臨床上いちじるしい苦痛、または社会的、職業的、他の重要な領域における機能の障害を起こしている
H:この障害は、物質(薬物乱用、投薬)、または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではない
I:この障害は、以下のようなほかの精神疾患ではうまく説明されない
1、限局性恐怖症
2、社交不安障害
3、強迫性障害
4、PTSD(トラウマ)
5、分離不安障害
引用・参考 監修・坪井康次(2015)「患者のための最新医学 パニック障害 正しい知識とケア」高橋書店
本から抜きだしましたので、医学的で少々難しいですよね。というわけで、以下、簡単にまとめます。
A:1~5の中で2つ以上の状況で恐怖や不安を感じること
B:自分で自分をコントロールできないことに恐怖を感じること
C:1~5のような状況ではいつでも恐怖・不安を感じていること
D:怖い状況を避けようとするか、信頼できる人が一緒にいれば耐えられるけれども、そのときでも強く恐怖や不安を感じていること
E:明らかに過剰な恐怖であること
F:一定期間継続しているか
G:生活に支障をきたしているか
H:薬や他の病気が関係していないか
I:他の精神疾患では説明できないものであるか
このA~Iまでが揃って、広場恐怖と判断されます。
Eの「明らかに過剰な恐怖であること」とは、たとえばナイフを突きつけられれば誰でも恐怖を感じますよね。
命の危険が迫っているので、これは当然の反応です。
しかし広場恐怖を持つ人は、バスに乗っただけ、レジで順番を待っているだけ、人が多いなと感じただけで凄まじい恐怖や不安を感じ、過呼吸になったり震えたり泣き出したりします。
これは明らかに過剰な恐怖ですね。
*広場恐怖とは、逃げられない状況が怖いこと
広場恐怖について紹介しました。
病気や障がい、何でもそうですが、当事者になってみないとその強烈な怖さや不安はわかりません。
薬で抑えているときや家族や友人といて安心しているときは、本人たちもそのつらさはやはり忘れます。
しかし、無意識が覚えているんですよね。
これが難儀。
すっきり忘れてしまえれば、こんなことにはならないのに…。
パニック障がいは100人に1人の発症と言われる珍しい病気ではありませんので、同時に広場恐怖を持つ人も結構います。
しかしパニック障がいであることを隠す人は多いので、たま~に経験者同士が出会えば「宇宙人に遭遇した経験がある人たち」なみにレアなことに感じ、気持ちを分かってもらえることにかなりの喜びを感じます。
あ、あなたわかるんだ!?
あの怖さ、わかるんだーっ!!
って抱きつきたい気分です。
私が知らないだけなのか日本では少ないのか、海外ではグループセッションなどもあるようですね。
経験者同士が話しあい、お互いに励まし合うと認知行動療法をしてみようという勇気がでやすくなるそうです。
また別の記事で広場恐怖の克服方法などを書きたいと思いますが、少しずつでも改善されるように、薬をきちんと飲んだ上で行動し、成功体験を積み上げていきましょうね。
私はこの冬、電車にトライすると決めています。
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