5、巣作り期間に執着心も捨てた
去年の話ですが、何度目かの巣作り期間を過ごしました。
女性は何かのきっかけで、どーんと自宅や部屋の整理整頓をしだす方が多いそうです。
それはほら、たとえば妊娠したとか子供が生まれたとか巣立ったとか、引っ越し以外のそういうタイミングでむらむら~っと「片付けをしなければ」と思うようですね。
私はそれを、巣作り期間と呼んでいます。
去年、私に大きな巣作り期間が訪れたのは、Webライターとしての収入が安定したことがきっかけでした。
私は元々片付けが好き……なわけではなく、好きなのは模様替えです。
いわゆる飽き性なのですね。
特に今より若いときは、「いつも同じ」であることが嫌でした。
だけど一番好きな引っ越しは中々簡単にはできないから(特に住宅を購入し精神疾患を持つ今は)、家具をあちこちに移動して雰囲気を変えることで不満解消をしていたんですよね。
模様替えをすると当然、普段は見えない振りをしている不要なものたちがドーン! と視界に入ってくるようになりますよね?
あら?( ゚Д゚)
あなた、お仕事は何されてるの?
そしてここで何をされてるの?
と聞きたくなるような、ここ5年くらいは姿を見てなかったよ、というものたちです。
人間は受け入れることに関してはさほどストレスを感じないそうですが、排出という行為はストレスを感じる生き物だそうです。
だからすべての排出行為には、もれなく快感物質が提供されることになっているんですね。
そうしないと排出しないから。
たとえば出産。
10ヶ月も自分以外の人間を腹の中で育て、最後にはもう大きくて重く、睡眠障がいにまでなってしまう原因のこれ(つまり、子どもだ)を文字通り死にそうになりながら一生懸命頑張って、壮絶な痛みに耐えつつうぬおおおおおお~っと産んだ瞬間、あの1秒ほどの、「うわあ~……今の、気持ち良かった……」という爽快感。
とてつもなく長い便秘を解消したかのような、あの感じ。
いきなり自分一人の体に戻り、お腹が軽くて息苦しさもない。
さっきまでいっそ殺してくれと願っていた悶絶する痛みも、すでにない。
出産のあの一瞬の快感や、人によっては巨大な感動のために人間を産んでんじゃないかと思うほどです。
命をかけた壮絶な「排出行為」だから、その前後に快感物質が山ほど提供されるのですね。
人間は、捨てるという行為に罪悪感やストレスなどを感じると言われています。
だけどこれは個体差があるはずですね。
事実、私はものを嬉々として捨てます。
一応分けるんですよ、これはリサイクルショップに持っていく分、これはママ友たちに要るかどうか聞く分、これはオークションに出品する分といったように。
ただポイと捨てるのは最後で、まずは他に我が家以外の行き先がないかと探します。
だけどそれらの中に残らなかったものたちは、あっさりとゴミいきです。
今まで有難うっ! だけど最後はちっとも使わずに仕舞いこんでいてごめんね!
って叫びはしますが、ガンガンとゴミ袋に突っ込める人間です。
とはいえ、ものによってはやはり心が動かされることがあるのですね。
簡単には捨てられないもの。
たとえば去年の巣作り期間で一番心を強く持って捨てたのは、営業時代に着ていたスーツです。
過労で倒れてパニック障がいを発症し、自宅療養を命じられ、外にいけないストレスからうつ病を発症した当初、それでも私は心の中で「すぐに治る」と思っていました。
別に体はどこも悪くない、ただ体力メーターがゼロになって倒れただけだから、すぐに治るだろうって。
そしたらまた、好きなようにガンガン働ける。
そう思っていたんです。
だから、仕事をやめるまで使っていたスーツや白いシャツ、黒いスラックス、パンプスやヒールなどは捨てていませんでした。
退職して自宅で寝たきりになりましたが、3ヶ月ほどでうつ病は寛解。
その後少しずつ動き出して、半年くらいで体力も日常生活が出来るほどに回復しました(それまでは本当に24時間寝たきりでした)。
もうあとちょっとしたら、パニック障がいも克服して外で働けるよな、って思っていたのです。
しかし、そこから1年経ち、2年経ってもパニック発作はやってきました。
一人では外で用事が足せない。
常に薬を飲みつつびくびくしながら過ごしている。
ちょっとした電話で緊張から号泣してしまう。
乖離症状が出て道端で立ちすくむ。
ああ、そんな簡単に治らないんだなってようやくわかりました。
だから仕方なく、ベイビーステップを踏むことにしたのですね。
社会復帰の第一歩と思って週1回や2回のアルバイトから始めたのです。
行き着けだった焼き鳥屋で、昼間一人での仕込みのアルバイト。
病気になってから、諦めていろいろなものを捨てました。
だけどそれでもスーツは捨てなかったんですよね。
その間にも何度か巣作り期間はあったのに。
まだ着られるし、また営業職に着くことがあるかもしれないからと思って。
ずっとクローゼットの奥に、春夏用、冠婚葬祭用、仕事用のスーツは眠っていました。
ところがある日、お世話になった焼き鳥屋の大将が脳出血で倒れ、お店がなくなってしまったのです。
週に1、2回のアルバイトで雇ってもらって3年が経っていました。
だけど私はまだ、外で働くには十分な心身ではなかったのですね。
一度大きなぶり返しに会って以来、それまでは大丈夫だった買い物や学校行事にもいけなくなってしまったので。
頼みの焼き鳥屋はなくなってしまった。
行き場所を失ってしまった私はせっかく戻りつつあった自尊心がまた消えてしまうことが恐ろしく、必死で考えたのです。
自分ができること。
自宅にいてもできること。
できればお金が稼げること。
そして行きついたのが、Webライターですね。
それまで焼き鳥屋が休みのときにちょこちょことお仕事をしていたこともあり、「これを真剣にやってみようかな」と考えたのです。
Webで作家活動をしていたこともきっかけではありました。
そして、現在に至ります。
だから考えたんですよね。
もうこれは、営業用のスーツは着ることはないよなって。
ずっと足掻いていましたけれど、ここへきてようやく受け入れるようになったのかもしれません。
自分は、外で昔のように働くことはできないという事実。
もっと悲しいかと思っていましたが、実際は結構あっさりとそう考えていました。
もういいや、家にいてお金を稼げて、体調管理も出来て、人にも家族にも迷惑や心配をかけないなら、これで。
そう思ったのです。
というわけで、その巣作り期間ではまずドシドシと階段を上がり、クローゼットをがらりと開け、冠婚葬祭以外のスーツは全部ゴミ袋に突っ込みました。
そんな安物のスーツではなかったので、リサイクルショップへもっていこうかなあとも考えたのですよ。
だけど久しぶりに太陽の光の下で見てみたスーツたちは、襟元が変色していたりほつれが出たりしていました。
スーツだって、経年劣化していたんですよね。
私の心身と同じように、クローゼットの中でも時間は経っていた。
長年かかったけれど、私は営業用のスーツを捨てたことで、外で働くことへの執着心も捨てたのです。
……そして、盛り上がっちゃったんですよねえ、巣作りが!!
スーツを捨てた、そのことが契機となったのは間違いありません。
せきをきったように、これも要らないんじゃね? から始まって、目につくものすべてが破棄の対象になりました。
最終的には実家から持ってきた母の婚礼箪笥、姉が使っていた箪笥、椅子3脚にカーペット、使用していない布団類などを捨てることに決め、粗大ゴミを予約。
予約日に車で夫に連れて行ってもらったクリーンセンターで計測したら、なんと150キロのゴミになったのです。
150キロだよ!
わお( ゚Д゚)!
婚礼箪笥なんて大変でしたよ。
何せ婚礼箪笥でしょ、無駄に頑丈……。
でかくて重くて、回収業者に頼むと人が必要だからと料金は上がるんですよね。
だから自力で解体することにしました。
40年使った婚礼箪笥の最後だよ、と実家の両親を呼んで(母の婚礼箪笥だったため)、3人がかりでバールでどつきまくって解体。
いやあ、刺激的な日だったなあ!
もちろん粗大ゴミだけでなく、リサイクルするものもオークションに出すものもママ友に譲渡するものもたくさんありました。
オークションとリサイクルショップで売り上げた金額は3万近くになったので、粗大ゴミ処理にかかったお金(といっても10キロで80円)もペイできたし、ピザのデリバリー代にもなりました。
うへへへへ~!( *´艸`)
すっきりさっぱりした家で、他の人が作ってくれたご飯(ピザ)を食べながら飲むビールの美味さよ!!
ああ生きててよかった、神様ありがとう°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
そんなことを思ったのでございます。
ちなみに、巣作りには一応ルールがあります。
それは「他人の物に手をつけてはならない」、これです。
夫のものは夫のものです。
子どもらのものも、本心では片っ端から捨てたいのですが、そこはぐっと我慢しました。
あくまでも自分が主に使うものに限定して始めて下さいね。
でないと家庭内戦争が勃発することもあります。
誰がどうみてもこれはボロ雑巾だ! と思うようなものであっても、本人にとってはかけがえのない宝物であるということが、往々にしてあるのです。
ゴムが伸びきった下着なんかは勝手に捨ててもよいと思うけど。
多分、宝物にはならないし。多分……。
家族で共有して使う大型の家具などは、それを捨てても不便にならない、むしろ今より快適で使いやすくなるのだよ、というプレゼンを家族にしてから破棄作業に移りましょう。
ちなみに、私のプレゼンは簡単でした。
家族(猫を含む)を目の前に集めて、一言。
「これを捨てれば母の怒鳴り声は激減する」
満場一致で破棄が可決されましたん。